- プロフィール
大学を卒業後、28年間会社員として、物流システム開発やコンサルティングに携わり、2015年1月、株式会社蔵之助を設立。社名には、物流センターの在庫管理システムの開発を通して、倉庫(蔵)で働く方々の手助けをしたいという意味が込められています。また、この得意分野を生かしたサービスも多数展開しており、こちらで開発したPOSシステムはももいろクローバーのコンサート会場やフジロックなどでも利用されています。
株式会社蔵之助 https://www.kura-suke.com/
初期費用の安さと通いやすさが魅力
―山下様はレンタルオフィスだけでなく、コワーキングスペースもオプションでご利用されていますが、どういった形で使っていますか?
当社はITの会社ですが、プロジェクトを組んで仕事をすることが多く、その場合は派遣の方にも来ていただきます。その方々に作業場所として使ってもらったり、私自身も気分転換で使ったりもします。
―レンタルオフィスってご存知でしたか? 自宅で仕事していたのですが、社員の増減に合わせてオフィスを探すことになりました。そこで、ホームページでいろいろ調べていて、レンタルオフィスを知りました。 -ビズサークルの良いところはどこでしたか? やはり初期費用と、通いやすさですね。このオフィスは自宅からも通いやすいし、亀戸駅からも近いですからね。あとは、担当してくれたスタッフの方が親切でした。 -6月から会議室の開放が始まり、契約拠点以外のオフィスでも会議室が使えるようになりますが、山下様は使いそうですか? 使うと思います。こちらのオフィスの会議室もよく使っています。会議室がただ有料になるだけでは、残念ですが、サービスが拡大するのであればとても喜ばしいです。 ―山下様と面識のあるスタッフに事前に、山下様の印象を聞いたら、「娘さんと仲のいい、優しいお父さんだと思う」と言っていましたが、当たっていますか? いやいや。苦労かけっぱなしです。年末、ずっと徹夜で帰れなかったことがあって、それでおせちを娘が持ってきてくれたことが確かにあって、その話をしたからですね。―徹夜で仕事ということも多いのですか? 多いです。日中はお客様がシステムを使っていますので、どうしてもメンテナンスは夜間になります。オフィスが24時間使えるというのは、ありがたいです。
お客様の困りごとを解決するものを作るのが私の仕事
―起業に至った経緯をお聞かせ下さい。 この業界のシステムは高額なものもあり、どうすれば安くお客様に提供できるか、もっと違ったサービスの仕方があるのではと常に考えていました。会社勤めだと、いろんな人の意見があり、時間がかかります。スピードに合わないので、だったらもう自分でやってしまおうと。それに、TPPが本格的に討議され始めたタイミングとも重なりました。TPPによってアジア圏の物流は変化します。今までは、国内で製品を作って輸出すると高い関税がかかるので、どのメーカーも最終消費地の国に工場を作って、その国で製造、消費ということをやっていました。でも、TPPで関税が今より安くなれば、工場を複数抱えるより、1か所にまとめた方がコストカットになりますよね。物流の起点が工場から、物流センターに変わる。起業するのは、物流のシステム需要が大きくなる今だと思いました。 ―どんなシステムを作られているのか、具体的に教えて下さい。 例えば、出荷の指示がかかると、商品のピッキングをするのですが、当社のウェアラブルメガネをかけると、商品の位置がポインティングされ、商品の場所が歩きながらでも分かります。ポイントだけでなく、テキストで注意事項なども表示できますので、従来は、紙やハンディターミナルを持って、照らし合わす作業をしなければならなかったのですが、時間も間違いも減り、業務の効率化が図れます。 ―他にはありますか? 在庫の管理が得意なので、その技術を生かして、イベントなどで使われるPOSシステムも作っています。音楽フェスなどで、オフィシャルグッズのテント販売を見るかと思いますが、テント内に置けない在庫は、駐車場にトラックに詰めて置いてあります。テントの在庫が少なくなるとそのトラックに、自動で「どのテントに○○を何個」と指示を飛ばす専用のPOSシステムです。 他には、外食産業のセルフオーダーシステムがあります。お客様のスマホにアプリをダウンロードしてもらい、そこからオーダー、決済までできるシステムです。シドニーで現在テスト中ですが、これが完成すれば、ショッピングモールの中のフードコートでも、それぞれの店舗のメニューを一気にダウンロード、そこから注文、決済、料理の出来上がりの通知が全てスマホ1台で可能になります。複数のお店に並ぶ必要がなくなり、世の中のお父さんが席の荷物係をさせられることもなくなります(笑)。今後はこのシステムの完成とシェア獲得が目標です。 ―それは便利ですね!こんな商品を作ろうというのは、お客様の声がきっかけになりますか? 「こういうことで困っています」というユーザーの声は大事ですね。その困りごとを解決するものを作るのが私の仕事です。
思い知った品質の大事さ。その課題を乗り越えて。
―起業して5年目ということですが、振り返ってみてどうですか? やってみないと分からないことがたくさんありました。物流は、配達指定日・日時に沿って、待ったなしで動いていますから、システムの停止や在庫の狂いが発生するとお客様にご迷惑をかけてしまいます。おととし、そのようなことがあり、とても精神的に苦しかったです。品質の大事さを痛感して、昨年1年間は全く営業活動せず、プログラムを一から全部作り直したり、手法を整理したり、品質向上だけに集中しました。だからこれからなんです。 ―決まっている今後の展開はありますか? 今年から開始するシステムが2つあります。一つ目は、病院の手術機器のレンタルシステムです。私も知らなかったのですが、多種多様な手術の内容に応じた器具を全サイズ、全種類、病院で保管することは不可能なので、病院から手術のオーダーが入ると、必要な器具をセットして滅菌して貸し出して、戻ってきたら、歪みがないかなどチェックして洗浄して保管する専門の会社があるんです。その在庫管理に当社のシステムを使っていただくことになりました。 二つ目が、インドでの医薬品の流通システムです。メーカーが病院の薬品庫に医薬品をストックして、その中から病院が使った分だけ請求するという、配置薬と同じ仕組みが日本の病院にはあるのですが、これを今度インドでも取り入れるそうで、そこでも当社のシステムが使われます。いずれも医療=人の命に関わりますので責任重大です。 ―このような仕事の依頼が来るのは、山下さんもこの業界では有名な方なのでは? そうかもしれないです。ただ、物流システムの会社って日本には少なくて。24時間365日、ずっと稼働していますから、やりたがる人がいないといったところではないでしょうか。 ―御社のPRをお願いします。 一つは、独自の開発ツールを使って、ローコストなシステムを展開できること。二つ目は、システムを提供したお客様を対象にしたプログラミングスクールを併設していること。システム画面にこの表示を追加したいとか、順番を並び替えて帳票出力したいとか、そういった細かいことが発生する度に、「お見積り下さい」なんてやっていると1週間かかるじゃないですか。思った時に、自分自身で手直しできるのはお客様にとってメリットが大きい。壊れたら治しますから、自由に使ってねって、お客様には言っています。これが可能なのは、分かり易く開発ツールを作ってあるからです。このスクールは、こちらの会議室で行っていますので、今後は亀戸以外でも開けるようになりますね。 ―新しい技術の開発はどのように行っていますか? インドネシアのジャカルタにあるBINUS大学の研究室の一部を当社の開発研究センターにしています。ここで修士課程の学生がITの最先端の研究をして、その成果を製品に組み込んで商品として提供しています。今は、先程のウェアラブルメガネで見える視界をモノクロに変える技術などに挑戦しています。起業したのと同じタイミングでこの研究センターを作りました。 ―どうしてインドネシアを選んだのですか? TPPによってアジア圏の物流が変化する中で、日本と産業構造が真逆の国、つまりは、日本からは加工品を多く買ってもらう、相手からは原材料をたくさん買う、このような輸出入のトレードオフが出来るこの国がこれから日本の重要なパートナーになると考えました。だったら、行ったこともないが、先に進出してしまおうと。 ―すごい行動力ですね。 インドネシア出身の学生の知り合いに、大学の情報を教えてもらって、ホームページに載っている教授の中から、写真の第一印象でこの人だ!って決めて(笑)。メールしましたが、返ってくる訳ないですよね。アポも取れないまま、とりあえず現地に行って、電話で「会いたい」とお願いしたけど、当然、不審に思われてダメでした。そこで次は、ジェトロの事務所に向かって、代わりに電話してもらって、ようやく会えることになりました。元々、情報システムの大臣をされていた方だったようで、結果的に、この教授で正解でしたね。 ―あちらの学生さんは優秀ですか? とても優秀です。我々は日本語で検索して、それに引っかかったものしか知り得ませんが、あちらは英語も使える。英語圏の情報量は日本語の情報量と比べ物になりません。そこから探してくるから早いです。出来上がるものの品質は良いとは言えないのですが、お手本としてはとてもいいものが出来ます。それを日本で磨き上げて製品化しています。あちらは貧富の差が激しい国です。貧しくても、ITが好きで勉強したいという向上心のある学生を選んで、私が学費や生活費を援助して、研究に励んでもらっています。彼らのような学生が成り上ってほしいと思っています。 ―最後に、山下様の夢はなんでしょうか? 我々が育ってきた過程は、バブルもありましたし、経済も自分自身も一緒になって成長してきましたが、これからの世の中はそういうわけにはいかず、ますます厳しい世界になっていくでしょう。だからこそ、お金がなくてもやれる!そんな風に起業を志す若者を手助けして、輩出していきたいですね。